剣道時代 2002.4より引用
すべて「社交辞令」と心得よ
これは「入り浸るな」「指導を吹聴するな」といったものだ。稽古が終わり、お目当ての先生のところに話を伺いに行ったとする。すると、期せずして先生が褒めてくださることがある。またはあまつさえ詳細にご指導いただくことがある。これを鵜呑みにして「〇〇先生にご指導いただいた。」「〇〇先生に評価していただいた。」などとのたまう人がいる。さらにその先生が全国的に有名な人だった場合、その先生のほんの社交辞令を真に受け、「〇〇先生の薫陶を受けた。」とか「〇〇先生に師事」などと言い切ってしまう人がいる。これは先生にしてみれば大変迷惑、かつ失礼な話である。
しかし、人間心理とは浅ましいもので、雲の上のような大先生に言葉を賜ったりするとそれだけで舞い上がってしまい、前述のようなことを吹聴してしまうことがないとはいえない。これはあなたにお相手してくださった先生の名誉にかけても口にすべきことでは無い。さらに「またぜひ稽古にいらっしゃい。」の言葉を鵜呑みにして、毎週のように出稽古に通われる人がいるが、月謝または会費を支払ってその先生に師事している門弟から見ると、「泥棒猫」のように映るはず。絶対に慎むべきだ。
出稽古はどんなに多くても2週間に1度と考え、その団体で学ばせていただいたことを自分のフィールドに持ち帰り、咀嚼し、身に付け、次回に臨むのがマナーと心得なければならない。
もう一つ述べておくならば、よその先生のおっしゃることは「刺激的&斬新」なのが当然と考えなければならない。普段教えてもらっている先生の指導と全く食い違う場合でも、日頃観ていただいている先生のご指導を優先すべきである。学校教育の世界では「教育実習生効果」と呼ばれるものがある。たまに観ていただく先生は、本質に切り込むような厳しい事はおっしゃらずに、当たり障りのない範囲であなたにとって耳障りの良いお話をしてくれるということだ。日頃、進歩向上に悩んでおられるあなたにとっては、「わが意を得たり」と思われるだろうが、落ち着いて考えれば、実際は、普段言われている延長線上に自分がいることに気がつくはずだ。あくまでも出稽古で耳にする言葉は「社交辞令」と心得るべきなのである。