剣道時代 2002.4より引用
現代剣道における出稽古の目的や意義と言うのは何だろう。
面識がある相手とは違い、自分にとって未知なる相手と剣を交えること、それは普段の稽古よりも数倍、緊張感を伴うものだ。かつて我々の祖先は一流一派の師匠に入門し、そこで学び覚えた剣を試すべく、諸国を巡業する武者修行の旅に出た。しかし当時の果たし合いは、真剣あるいは木刀で行われており、「負け=死」をも意味する過酷で熾烈なものであった。「門外不出」「他流試合禁止」を旨としたが、逆に言うと、流派剣道はそうした過酷ともいえる、出稽古の積み重ねによって脈々と今日につながってきたのである。
現代剣道においての「出稽古」はそこまでの意味を持っていないが、やはり「出稽古に行く」にはそれなりの覚悟と自覚が必要な事はいうまでもない。我々が普段の稽古で剣を交えている人以外と対峙するのは、試合・審査・講習会・連盟の稽古会など、極端に限られているのが現状ではないだろうか。そこで本特集では、そうした場合以外で個人的に他の団体で稽古に行くときの心構えを八ヵ条としてまとめてみた。
最初に気を付けるべきは、まずここだ。何が言いたいのかというと「必ず下調べをしてから出かけなさい」ということだ。ありふれたことだと思うのだが、意外にこれができていない。
2番目に気をつけたいのはここ。その団体の人には、指導者・生徒・父母の区別なく、感謝の尊敬の念を持ち、謙虚で真摯な態度を貫き通すことが肝要だ。たとえあなたが高段者であり、指導者として請われていった場合でも、あくまでも「お稽古をさせていただく」という意識を持ち続けるべきだ。
これは整列で座る場所、元に立つ位置、所作、礼法、着装、言動などのことである。そこの会員の方はもちろん、指導陣、父母など、すべての人からあなたは見られていることを忘れてはならない。「どんな人なのかなあ?」「どんな剣道するのかなあ?」「どれくらい強いのかなあ?」と、様々な思惑であなたは見られているのである。
相手がどんなレベルの方であっても全力を尽くし、子供であっても決していい加減な稽古をしてはならない。下座からかかる場合はベストさえ尽くせば問題はないが、自分が上座で元立ちに立つ場合は十二分に心がけたい項目だ。
初・二・三段といった下位者の場合、気後れからか、せっかく出稽古に行ったのに下座の方ばかりで稽古をしているのを見かけることがあるが、これはいただけないしマナー違反。むろん紹介者が友人だった場合「一本お願いしたい」という気持ちもあろうが、まずはそこの長にお願いし、順に上座の先生方の指導を仰ぎ、それから時間があったら紹介者と稽古するのが筋である。
あなたが防具の着装を終え、まだ自分の稽古の番が来ず、手持ち無沙汰に見学をしていると、指導者から様々な注文が来ることがある。「子供の地稽古の元に立ってやってください。」「中学生の地稽古の元に立ってください。」「◯段を受審するのですが、剣道形の相手をお願いします。」
あなたが下座で元立ちの先生にお願いするべく並んでいると、その団体の門人の方が「お願いします。」と声をかけてくることがある。相手はあなたのことを整列の折に紹介され、何段でどんな経歴を持った方だと知っており、それで「お願いします。」となったわけだが、あなたは相手のことを何一つ知らないわけだ。「お願いします。」の言葉を鵜呑みにして元立ちに立ったりすると、大変な目に会うことがある。
これは「入り浸るな」「指導を吹聴するな」といったものだ。稽古が終わり、お目当ての先生のところに話を伺いに行ったとする。すると、期せずして先生が褒めてくださることがある。またはあまつさえ詳細にご指導いただくことがある。これを鵜呑みにして「〇〇先生にご指導いただいた。」「〇〇先生に評価していただいた。」などとのたまう人がいる。